やっぱり「ゲーム小説」だった

ツァラトゥストラへの階段ISBN:9784840240727

看板に偽りあり

 「大昔の神と崇められる存在や、歴史上の英雄などは、パルスをコントロ
 ールしていた存在なのよ」
  得体の知れない“存在”――パルス。パルスは人の精神に寄生する。パ
 ルスに寄生されると宿主となった人間の知力・体力があがり、また特殊な
 力が生まれる場合もあるという。
  そんなパルスに感染していることが発覚した高校生・福原駿介。彼の運
 命は一気に動きはじめる。パルスを制御しようとする組織の存在。そして、
 同じくパルスに寄生されている少女との出会いが――。
  果たして駿介の未来に待っているのは……!?
  緊迫のストーリー、開幕!!

カバー紹介文より引用
このように紹介されると、いわゆる「能力バトル」になりそうな予感がするのですが、見事に裏切って下さりました。またもや『カイジ』です。「ゲーム小説」です。
とはいえ、作者の土橋氏は受賞作『扉の外』でもゲームにおける心理戦を主題としていたので妥当なラインだとは思います。

イラスト

ライトノベルの特徴としてイラストが挙げられます。というわけで今回はそれについて触れます。
イラストレーターの白身魚氏は京都アニメーションで仕事をしているとのことです。つまり『ハルヒ』『らき☆すた』も描いたことのあるたたき上げタイプ。この絵柄は個人的には好きです。


只、土橋氏の作品は絵柄が少ない。これが非常に残念なのですが、イラストが少ないこともこの作品の売りなのでしょう。

ゲーム

土橋氏の作品は「ゲーム」というテーマに貫かれています。それこそが前シリーズ『扉の外』の魅力であり、極論を言えば「結末も、その他大勢の心理描写も二の次」なのです*1
では、今回のゲームはなんでしょうか?

  1. 交渉を主軸においたゲーム
  2. 人身売買ゲーム

前者は「平成教育委員会」に出てきそうな知能クイズ+ゲーム理論における非協力ゲームという、土橋氏が『扉の外』で扱っていたタイプのものです。正直、これについては語ることは多くありません。



問題は後者です。後者は「ローマの奴隷剣闘士を現代市場で扱ったらどうなるか」というものです。各々の奴隷*2には証券が発行されていて、大株主になると奴隷に指示を出すことが出来る。剣闘士の勝負に勝つと証券価格が上昇する。というものです。
ここで重要なのは奴隷は生身の人間であるということです。つまり情が湧きやすい。このようなゲームでは非情になることが大切なのですが、主人公はそれが出来ない性格なのです。その上、とある人物が奴隷になっていて…


と、このような痛々しいテーマとなっております。そういうのに抵抗がある方は避けたほうがいいでしょう。

*1:今回はその他大勢を描かないとまずいテーマになりそうです

*2:作中表記では「囚人」。「ゲーム」で負けたものの末路