典型的パターンも組み合わせれば名作となる
輪環の魔導師―闇語りのアルカインISBN:9784840240666
またもや正当派ファンタジー
「何を正当派と定義するのか」は気にしないで下さい。
『空ノ鐘の響く惑星で』の著者渡瀬草一郎氏の新シリーズです。同氏は「ファンタジーを書くのが苦手」と言っておりましたが、苦手意識と作品の出来は相関しないらしいです。舞台は魔法が当たり前となっている世界の辺境地域。魔法といっても、道具が無いと使えないという設定です。
所謂「バカ一」展開
この作品は良く用いられる展開を多用しています。脚注は俺が思いついた、過去の作品です。
- 貴族のお嬢様と使用人の少年は幼なじみである
- 少女は少年を「自分のもの」として扱う
- 魔法には「魔道具」が必要*1
- 誰でも使えるはずの魔法を使えない少年*2
- 魂を売って「魔族」となった者達
- 「魔族」になると魔道具を作れない
- 「魔族」になるためには大切なものをひとつ失う*3
- 「魔族」による王家の支配
- 魔術によって猫の姿に変えられた賢者
- 肉親の残した伝説の魔道具
- 猫型魔導師の「四次元ポケット」
- 少年は秘められた力に目覚める
ここまで「よくある」設定が盛り込まれているのに、ちっとも「パクリ」感がありません。何故でしょうか。そもそも、芸術とは模倣の積み重ねであるからして影響を受けることはなんら悪くありません。そうでなければ、今のファンタジーはほぼトールキンの「パクリ」になってしまいます。そうではなくて、その「影響」が特定の芸術家のみから受けたとき「劣化○○」と批判されるのです。
翻って、この作品を考えてみましょう。身分差にまつわる葛藤は「フィガロの結婚」あたりから存在します。悪しきものに支配された王室とて、三国志の時代より前から使われています。一方で、ゲームにも用いられるような設定も存在します。
つまり、この作品は多くのジャンルから良い面を反映できた作品なのです。あえて断言します。これは、作者の教養の深さを示す作品です。
どんな方にお勧めか
ファンタジーが好きな方、幼馴染ものが好きな方は絶対に読んでください。