田中ロミオ『AURA』ネタバレ

ISBN:409451080X

黒歴史を引きずり出す作品

冒頭に学園異能系の展開を予想させるバトルをもってきて、その後視点人物が電波系少女と出会うという、灼眼の何たらを予感させた作品。しかしこの作品、全く異次元に関する描写がないんだよね。
そういう疑問を抱きながら読み進めていくとまさかの方向へ向かう。いや、非ライトノベル作品ならば当然の方向なわけなんだけど「ガガガ文庫」ということを前提に考えると明後日の方向に向かってしまう。これはスニーカー文庫乙一が混ざっているようなもので、読者にとっては斜め上の展開。
どういう事かというと、やはり電波系少女はただの電波系少女であって、別に封絶をを張れるわけでもなく、断章を持っているわけでもなかったわけです。ただのイタイ人だったんだよね。そのことに読者が気がつくと、もはや作品は「学園異能」から「とにかくイタイ青春小説」もっと言えば、「超常現象のないファウスト系小説」になってしまうのです。
この作品のすごいところは、作者がその変化点を規定するのではなく、読者がその変化点に気づくのにまかせているということ。誘導し、同じゴールに向かわせるのだけれども、その具体的経路までは規定しないことにあると思います。
ブギーポップリターンズVSイマジネーター』の以下の記述を思い出しました。

「どうするね?これは君らの自由意思なんだ。僕は決められない」
(中略)
「駄目だ。イマジネーターに強制はないんだ。影響する側に立つか、ただ世界に流されるだけか、二つに一つなんだ」

閑話休題。結末では、電波少女が一般人に更生し、周囲も「人は誰しも黒歴史がある」のような事を言い出して皆が救済されたのですが、これは「おはなし」の世界だからだろうなぁと感じました。
彼女が救済されたのは「邪気眼持ち」の先生が「邪気眼持ち」の生徒を多数一つのクラスに集められたという事に大いに起因しているわけですが、現実はそんなに甘くないわけで、邪気眼絶賛発動中の生徒を10人以上集めるのは至難の業です。何が言いたいかというと、「僕らには過酷な日々を、そして彼らには始まりを」というわけです。
失礼しました。