水没ピアノ 鏡創士がひきもどす犯罪

ISBN:9874062760225
鏡家サーガ本編で最も新しい作品。といっても、2002年3月にノベルス版が出版されました。
3つの物語が並行して描かれていくという形式。このような形態の作品はどのように帰結するかで読後感というものが変わってきますが、この作品では第一の主人公の過去の話として第二、第三の物語が描かれていたという結末になっています。しかしながら、この作品は一人称小説であるが故にそのままでは第一の主人公は第二、第三の物語を認識してしまいます。普通ならばそれでよいのですが、本作の場合問題が生じます。第一の主人公は現状に不平を抱いているのです。その原因の一部が過去にあると解ってしまったら、不平もなにもありません。そこで主人公は記憶喪失ということにするのですが、そうすると非常に恐ろしいことになります。

記憶を失っても咎は残る。

ということになってしまうのです。これは、ある種の前世の業と同じ役割を果たしてしまうのではないでしょうか。この作品では前作に比べて超常現象的な要素が非常に薄くなっています。そうであるにもかかわらず、"前世の業"のような技が使えることに驚愕しました。